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2023.04.01『枠にとらわれず自分らしく生きる暮らし』

吉井勝昭さん貴子さん

profile

高根沢町で生まれ育ち、父親が創業した株式会社吉井建設の2代目として、家業にまい進する勝昭さん。茨城県大子町出身の貴子さんは、春の陽だまりのような笑顔で勝昭さんを支え、アパレルショップで仕事をしながら家族を優しく包み込む。実家を事務所兼自宅としてリノベーションして、さらに地元に根を張り、未来に夢を描き、希望を持って、一人娘の葵ちゃんと共に心豊かに暮らしている。



『仕事も遊びも全力で』

「いつまでもピーターパンなんですよ」と優しいまなざしで勝昭さんを語る貴子さん。

いわゆるピーターパンシンドロームというよりは、少年のような心を持ち続け、何にでも興味を持ち、エネルギッシュに動き回ることを示唆している。

その型破りなスケールには驚かされる。

知人にサーフィンを勧められると、“かなづち”なのに躊躇なくウエアや道具を揃え、いざ海へ。もちろん、最初は全然できない。そうなると、持ち前の“なにくそ”精神でのめり込み、今では立派な週末サーファーに。本人曰く、「まずは形から入るタイプで、見た目はプロですよ。結構なんでもすぐこなせちゃう」とうそぶく。その実、やると決めたら、とことんやり抜く努力派タイプ。「簡単でないからこそ、のめり込んでしまう」という旺盛なチャレンジ精神で、サッカー、ゴルフ、バイク、スノーボードと枚挙にいとまがない。

その行動力と集中力は、仕事でも活かされている。

高校卒業後家業に入り、技術や知識は全て現場で学んだ。「考えるより行動するほうが早い。亥年生まれなので、コレと決めれば、猪突猛進する」と自己分析。要は、自分の気持ちに正直で、まっすぐなのだ。「まっすぐ過ぎてバンバンぶつかる。特に父とね。ぶつかって、考え直して、軌道修正する」と笑いとばすが、厳しい建設業界の現状を真剣に分析し、受け継いだ後も継続発展させるために先を見据えて提案する。今は、社長である父を立てつつ、エンパワーメントして進化しようとしている時期とも言える。



『マイペースで芯が強い』

美しい山河に囲まれ、4人姉妹8人家族の中で心身共に健やかに成長した貴子さんは、人の温もりを大切にし、物事を表面で捉えず本質を見抜く。宇都宮市で憧れのファッション関連の専門学校を経て、メンズショップに就職。そこでの接客を通じて人見知りを克服。とにかく明るく、気さくな性格に誰もが魅せられてしまう。常連客の勝昭さんもその一人。「一見、チャラチャラしていたけど(笑)、話しを聞くと真面目な人で、誰とも話し上手」というのが、貴子さんから見た勝昭さんの第一印象。

その印象通りに、付き合って早々に、貴子さんの母親と出かけたり、父親に挨拶に行ったり結婚前提の真面目な付き合いをスタートさせ、間もなく二人は勝昭さんの祖父母と一緒に同居し始める。その3年後、「自分の母方のおばあちゃんが亡くなり、花嫁姿を見せられなかった。(家族に花嫁姿を見せるために)結婚しよう」という貴子さんの言葉に、勝昭さんが正式にプロポーズ、そして2011年9月29日に結婚。

二人のやりとりは漫才のボケとツッコミのように息がぴったりで、軽快かつ愉快で笑いが絶えない。勝昭さんがぐいぐいリードする時もあるし、貴子さんがしっかり手綱を握る時もある。お互いを良く理解し、時には腹を立てることがあっても、基本的にはお互いのライフスタイルを尊重し協力し合う対等な間柄。だからこそ、それぞれが自分らしく生き生きと暮らしていられる。



『難しいから面白い』

勝昭さんは、地元の高根沢町を「のびのびとした生活を楽しむには、高根沢は最高。自然もあり、気候もおだやか。暮らしやすい」と認めつつも、課題もたくさんあることを指摘する。地元を愛し、地元に根を張る覚悟があるからこそ、独自の視点で将来を語る。「まずは、父の仕事を盤石にすることが第一の使命」と言いつつ、“農業”への参入を目指す。「リスクを言ったら何も始まらない。やらなければ、成功するか失敗するかわからない。たとえ、失敗しても、次を考えればいいこと」と、持ち前のチャレンジ精神を全開にして、将来のビジョンを描く。

家の周りに広がりつつある耕作放棄地を見て、短絡的に農業を目指したのではない。厳しい状況におかれた建設業界、人財の有効活用、外国人登用、通年コンスタントにある仕事、農業の後継者不足、深刻な食料不足への危機、農業の法人化、地元との関わり、地元ブランドの創造等々、実に多角的に分析しての選択なのだ。自分なりの農業の未来予想図は徐々に固まってきて、実現へのアプローチや人材確保はすでに静かにスタートしている様子。「やるからには“勝ち”にこだわる。だけど、楽しみながら、笑い合える会社、従業員あっての会社でありたい」と、勝昭さんらしい“フレンドリー”感を押し出す。

とは言え、趣味の範囲の農業は楽しいが、本業、起業として考えると相当なエネルギーが必要とされ、リスクも大きいはず。「難しいから面白い。男は努力しないと」と、きっぱりと言い切る。



『大切なのは流されず自分をしっかり持つこと』

「自分が大事。回りに振り回されず、参考にしても、自分で考え、自分でやる。流されない」と、生き方のこだわりを力説する勝昭さん。

一方の貴子さんは、「楽しく暮らしていきたい。いろんなことを、こうだと決めつけないで流れに任せて、良くいったらいいし、そうでなくてもそれはそれ」と、ソフトな言い回しではあるが、自分スタイルを大切にしている。コト、モノ、ヒトを柔軟に受け止めるという根っこの考え方は、勝昭さんと同じ。妊娠、出産でいったん辞めたアパレルショップで、今はパートとして自分らしい働き方をし、気が付けば一番の古参。社長から「気が利く」と頼りにされているが、農業がスタートすれば、家業に入る覚悟もあるとか。とにかく、何事も気負わないのがいい。

夫の仕事を応援し、趣味も続けさせてくれる懐の深い妻に対して、「子どもの成長や家族の健康など、守るものは守らないといけない。それは、結構、大事なこと。社員を守ることも」と、仕事も含め一家の大黒柱としての自覚をかみしめる勝昭さん。夫婦や社員を、主従関係ではなく、共に生きる仲間と捉えることに、勝昭さんの人間としての魅力を感じた。

 

【Project staff】

企画・編集/ドクターリフォーム Banana works LABO

カメラ/氏家亮子・CLALiS

ライター/菊池京子