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2023.02.11『小さな幸せを積み重ねて夢を追う暮らし』

 

塚本理英さん

profile

神奈川県横須賀市生まれ。ミッション系中高一貫校で学び、大学卒業後輸入関係の会社に就職。仕事で知り合ったご主人と結婚し、2年後にご主人の実家(茂木町の明治15年創業の老舗「塚本商会」)へ。4世代10人家族の嫁として、三女一男の母として、社長夫人として、気負うことなく環境に溶け込み、自分らしい充実した時間(とき)を愉しんでいる。



『料理で家族を楽しく幸せにしたい』

広々としたおしゃれでスタイリッシュなキッチンに立ち、楽しそうに活き活きと料理する理英さん。自らコーディネートした素敵なテーブルに、次々と美味しそうな料理を並べていく。料理をしながら“食”にまつわるエピソードや想いを弾むように語り、話題が尽きない。

おもてなし料理の幅を広げるため、「食べる宝石」とも称されるフィンガーフードを習い始める。ついには、日本フィンガーフード協会の上級認定講師の資格を取得したという。

そもそも料理に興味を持ったきっかけは、結婚してご主人の実家に入り、4世代10人分の食事を担当することになってから。「どうせごはんの支度をするなら、美味しく、楽しく」が彼女のモットー。「食事は、趣味などと違って、家族全員で楽しむことができるでしょ。美味しいごはんを食べると、みんなが笑顔になる」と。世代の違いや好みの違いに配慮して、心を込めて料理する。

理英さんの母親は、いわゆる昭和の専業主婦。「誕生会には手作りケーキ、ロールパンやツイストドーナッツも作ってくれて、おせちも手作り。家族で楽しく食卓を囲んでいましたね」と。“食卓は家族団らんの場”というDNAがすでに備わっていた。「健康を考えると、食は大切。手作りが一番。家で作ればコスパもいいし、栄養面も優れている」と。ご主人の貴士さんも「妻の手料理は、すごいパワーがある。子どもたちがちゃんと育っているのは、理英がしっかり料理を作ってくれてきたからだと思う」と吐露する。

実は、この素敵なLDKは、貴士さんの感謝の気持ちの表れで、4年前にリフォームしたもの。以前は一つの台所を貴士さんの祖母、母と3人で使っていたのだとか。「子育て、両親祖母と従業員の世話を嫌がらずにやってくれる人はそうはいないと気付いた。10人家族を食で楽しくしようとがんばる姿に、ずっと何かしてやりたかった。料理教室で学んだおもてなし料理やテーブルコーディネートを自宅でも実践できるように、キッチンをリフォームし、やがて料理教室を開きたいという理英の夢を応援したい」と。

とても築100年の家とは思えないほどモダンに変身したキッチンで、理英さんは家族や従業員、友人知人などいろいろな人に料理でおもてなしを楽しんでいる。「美味しいと言ってもらえるとやりがいがあります」。プロのシェフにも学び、理英さんの腕前はすでに師範級。なのに「まだまだです」と謙遜し、目標を高く持ち、教室開設への準備を進めている。

 



 

『子ども達の故郷(ふるさと)として地元を愛する』

国際的雰囲気のある横須賀で育ち、仕事は輸入関係で、海外旅行も一人でいくほど都会的生活をしてきた理英さん。貴士さんは大手商社勤務だったが、家業を継ぐためにやがて地方の実家に戻ることを承知の上で結婚。「結婚前に初めて茂木を訪れた時に、気に入ったとかステキとかはなかったけど(笑)、絶対無理とか嫌悪感はなかった」そうだ。

貴士さんは、「地元の不満をいっぱい言ったり、地元を離れたり、同居で家族関係がうまくいかない人は珍しくないのに、よくがんばっている」と、妻を誇らしげに語る。理英さんは、「それは、とても残念なこと。否定的な言葉は子どもたちの耳にも入ってしまう。子どもたちには故郷を誇りにしてほしい。今の茂木を否定するのではなく、こうすればもっといい茂木になるのでは」と、まちづくりに積極的に参加している。

地元マスコットキャラクター“ゆずも”誕生やそのブランディングに深く関わり、他にも地域に根ざした多くの活動やボランティアにも参画。食生活改善推進委員として、食育や栄養バランスのとれた食事の普及活動にも参加している。茂木町ケーブルテレビに出演して、レシピを教えることもあるんだとか。「外から来た私には、地元の人が見過ごしてしまう良いところが見えたし、主人が地元出身なので、余所者である私の改善提案にも耳を傾けてもらった」と偉ぶらないところがいい。「子どもたちにとって、茂木は故郷。その故郷がすたれていくのはいや、こんな私でも役に立てれば」と、地元を愛し、地元に根をはろうとする。その姿が周りの人に受け入れられ、今では地元に必要な存在となっている。

 



 

『ご縁で広がる世界』

料理教室に通いはじめて9年が経つ。

一つの料理を知ると、その食材やその土地の文化、食器やテーブルコーディネートなど、どんどん知識欲が旺盛になる。一人の先生を知ると、いつしかその人を通じてネットワークが広がる。ついには、師事している料理教室の先生のアシスタントとして、フランスを訪れたこともある。「ご縁に感謝。ご縁でいろいろな事や人とつながり、新しい体験ができる。パリに行ったりトルコ大使館に行ったりと、どんどんご縁が広がる」そうだ。

確かに“ご縁”もあるだろう。でも、一番肝心なのは、学ぼうとする意欲と、ひたむきな勤勉さではないだろうか。理英さんは、料理だけではなく、それに関連するテーブルコーディネートやフラワーアレンジメントなどのインテリアにも興味津々。その探求心が前へ前へと進ませ、豊かな生活へとつなげる。

貴士さんは「一人ひとりに人生がある。動くことで仲間が増えたり、ネットワークが広がったりするのは幸せのひとつ。料理を通じて彼女の幸せが増えることで、子どもたちも、私も、従業員も幸せ。彼女を幸せにすることは、まわりも幸せになること」と理英さんの背中を後押しする。

 



 

『今を大切に未来につなげる』

平日は、会社の経理を担当し、週末は、中学から都内の学校に通っている4人の子どもたちの世話をしに東京を訪れている。さらに、「情勢は厳しいけど、ずっとこの茂木町、栃木県で地域社会を持続可能にするために、個人として会社として何が貢献できるか考えている」という貴士さんを陰で支える。折に触れてパーティーを開いて、料理で社員たちをもてなし、労をねぎらう。

「知り合いの農家さんから採れたて野菜をもらったり、調理法を教わったりすることがある。和食や洋食の概念をはずすと、調理のバリエーションが広がりおどろいた」と、とにかく料理に真摯に向き合う。それは、「いつかは料理教室を開く」という夢を叶えるため。

仕事を通じて出逢い、「最初のデートで結婚を決めた」という貴士さんと25歳で結婚。昨年、銀婚式を迎えた。

「子どもたちが全員成人し、それぞれに独立すると、二人に戻る。大家族だったので、二人の時間が新鮮で尊いと感じられる。これからは、二人の共通の時間を大切にしていきたい」と、当たり前で些細なことを幸せに感じるという理英さんは、本当に今を大切に生きている。その小さな幸せの積み重ねが、きっと豊かな未来を約束するはず。

 



 

【Project staff】

企画・編集/ドクターリフォーム Banana works LABO

カメラ/氏家亮子・CLALiS

ライター/菊池京子