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2023.06.19『“今”を楽しむシンプルで心豊かな暮らし』

 

齋藤健太さん

緑さん

Profile

齋藤宅をひと言でいうならば、必要なものしかない空間。それは、質素ではなくシンプルで光と風があふれる居心地の良い場所。そして、心豊かな暮らしを楽しむための温もりにあふれている。今必要なものは自らの手で作り、いらなくなれば取り去る。出逢ってから7年、進化する住空間と同じように、お互いを慈しみ影響し合って、共に成長しながら暮らしている。



 

『静かなる熱い想い』

寡黙でありながら、それでいて、いつも何かに微笑みかけているような健太さん。愛おしむ眼差しの先には、常に妻の緑さんがいて、愛娘のほの花ちゃんがいる。時として、偶然飼うことにしたヤモリや観葉植物にも向けられる。

緑さんの目を通して語られる健太さんは、寡黙さとは裏腹に、とても愛情豊かで存在感がたっぷり。家族が心地よく暮らせるための思いやりとアイディアにあふれ、創意工夫して必要なものを自ら作り出すという、クリエイティブな一面を持つ。もともとモノづくりが好きで、ボランティアで人の役に立つモノを作っていたこともあった。

かつては祖父母が店舗兼住まいとして暮らしていた築58年の空き家を譲り受け、4年前にリノベーション。基本的な構造はプロの手によるが、スキップフロアの最上階の床やシューズクローク、キッチンの食器棚などインテリアの一部は健太さんのDIY。今でも緑さんが「ここに〇〇があったらいいな」とつぶやくと、いつの間にか出来上がっている。ほの花ちゃんが歩きだすと、転落防止柵が出現する。そうやって、その時々の生活に必要なものは、健太さんの手で整えられている。

 



 

『自分流の時の流れに感化されて』

三人姉妹の末っ子として自然あふれる茨城県常陸大宮市で生まれ育った緑さんは、東京の服飾関係の大学で学び、ファンション系の仕事に就いて10年ほど都会暮らしを経験。ワーキングホリデーでカナダに行ったり、遠距離通勤や1カ月の出張もなんなくこなしたり、とにかくバイタリティあふれるイキイキとした女性。健太さんは、鹿沼市で生まれ育ち、地元で趣味の釣りを活かした仕事に就いている。

自然や小動物、山登りなどが好きな健太さんと、キャンプやカヌーなど外遊びがしてみたかったという緑さんは、必然のように出逢い、アウトドアライフを一緒に楽しむようになった。

緑さんが夫に望む条件は、「男友達とよく遊び男友達に好かれている人。山登りなど外遊びができる人」の二つ。条件にぴったりで、「静かな人だったけど、一緒にいると居心地がいい」と結婚。

一緒に住むと、自分と違うところが見えてくる。行動力のある緑さんは、思い立ったらすぐやるタイプ。一方の健太さんは、気が乗らないとやらない、乗れば集中してやるタイプ。相手にやって欲しいことがあると、パッと言う緑さんに対して、「あれやれ、これやれ」がなく「やって欲しい」もないのが健太さん。どう折り合うかは、お互いを慈しむこと。「相手のできてないことは目につくけど、よく考えると自分も同じだったりする。穏やかな健太さんのお陰で、まずは自分を振り返れるようになった」と、健太さんのペースにどんどんはまっていく。ついには、「気が乗らないのなら無理してやらない、という暮らし方もいい」と思うほどに感化され、「〇〇しなきゃと思うと、気になるしイライラする。急かしてもいいことはない。要は、自分が気にしなければいいだけ」と。その結果、その時その時を受け入れ、“今”を楽しむようになった。

 



 

『期間限定の今を第一に』

ストレスになりそうなことを自分の中で貯めこまず、人の目や周りの情報を上手く受け流す、いい意味での鈍感力を備えた齋藤夫妻にとって、目下の最優先事項は愛娘のこと。「三人で遊べる時間は今しかない」と、夕食後の団らんをことさら大切にする。

「本当は、庭の草をむしりたい、料理も手をかけてゆっくり作りたい、でも、やらない。期間限定のものを一番に考えたい。今は子どもと一緒にいることを楽しむ。そうじゃないと、娘がぐずり、そのストレスの鉾先が健太さんに向いてしまう」と、いたって単純明快。

妻として母として、仕事も家庭もでは限界がある。夫婦で適度な役割分担と、物事の優先順位は不可欠。「暮らし方の変化、住む人の年齢の変化で、不都合が都合になり、都合が不都合になる。ずっと完成形のままではない。人もお互いに成長するし、モノもコトも変化があって当たり前。変化を楽しむ心が大切」と、そのしなやかな考え方が、全てを好転させているように感じる。

植物や畑担当は健太さん。「たまに、植物の前でじっとしていることがあって、まるで、植物と対話しているみたい。やみくもに水をやるのではなく、必要な時に水や光を与えている。自然と共に生きているみたいですよ」と言い、「そんな時間がステキ」と幸せそうな顔で健太さんを語る。

「子どものことでのんびりする時間が減ってはいるけど、ちゃんと私たちを見ていて、必要なコトやモノを整えてくれる」そうだ。何も言わないけどストレスがたまった様に見える時は、「友達と一緒に遊びに行って…」と促す。「私のストレスを受け止めてくれるには、健太さんがしっかりしていないと困る。一見健太さんを気遣っているようだけど、実は自分のため。自分のサンドバックになってくれないと…」と笑いながら、照れ隠しをするのもいい。

 



 

『笑っていられればいい』

「断捨離が好きなんです。旅行してみると必要なものがわかる。生活は必要最低限のもので大丈夫」と。その反面、植物のように生活には必要ないけど、暮らしが豊かになるものなら好んで入手する。以前は、便利情報に追随して見栄で購入したり、100円均一店で適当に買ったり、その場しのぎのモノであふれていたそうだ。テレビで断捨離の番組を見て、思い切ってたくさん捨てたら、気持ちがスパッとしたそうだ。その失敗の経験から、今は「これ必要かな?」と問いつつ取捨選別する。だからこそ、生活はどんどんシンプルと化していく。

「ある時、洗濯機が出かける時に壊れてしまって、超イライラして、洗濯機を蹴ったことがあった」とおかしそうに振り返る。それ以来、出かける前には洗濯機を使わないそうだ。また、散らかるのが嫌いな緑さんにとって、片付けてないカップはストレス。そんな時でも、怒るよりも、「カップをしまう位置が片付けづらいのかな」と思い直し、ワンアクションで出し入れできる場所に変更。とにかく、使いやすさを優先させたシンプルな動線にこだわる。つまり、ほの花ちゃん用のバナナが、レンジフードにぶら下がっていたのにも、究極の理由があったわけだ。

そんな日々の出来事を通して、緑さんが学んだことは、意に沿わないことがあったら発想を変えること。そして、「やらなければいけないことを作らない」。そうすることで、ストレスはなくなり、いつでも笑顔でいられる。笑顔でいれば、余裕が生まれ、心が豊かになる。

ひょっとしたら、これも、マイペースな健太さんと暮らしているからこそたどり着いた、自分たちらしい心地よい暮らし方なのかもしれない。

 



 

 

 



 

【Project staff】

企画・編集/ドクターリフォーム Banana works LABO

カメラ/氏家亮子・CLALiS

ライター/菊池京子