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2022.02.02シリーズ建築について『古民家』

「古民家のリノベーションを考えているのだが、相談にのってもらえないか?」とのお問い合わせが、毎年数件あり、その大部分は、私たちが思っている『古民家』とは異なる。 一般社団法人全国古民家再生協会でも「昭和25年の建築基準法の制定時に既に建てられていた『伝統的建造物の住宅』と定義しているが、「古い民家なので、古民家。」という考え方も間違いではないので、住んでいる方が古民家だと言っていれば、特に否定もしていない。

そんな古民家に、実際に暮らす人はどう思っているのだろう。
大抵の方は、「古すぎて寒くて不便で、何とかしたい。」という、『古民家困った派』で、その殆どは、希望と現実の予算ギャップで、フルリノベーションを断念している。

では、実際にフルリノベを決断した方は、どんな考え方を持っているのだろう。
ある方は、「祖父が建て、父はそのまま(何もせず)暮らし、孫の自分がフルリノベーションを行い、自身の子供はそのまま(何もせず)暮らし、孫がまたリノベーションする。としたら、各世代で家を新築している一族と比較して、金銭的メリットもあるのでは?」と。

新築は安く見ても土地購入があるため3000万円はかかるだろう。それを3代続ければ約一億。フルリノベーションでもさすがにそこまではかからない。皆さん大抵3000~4000万円で実施している。これは古民家に問わず使える計算式だと思うので、ご自身が、一族として家に使う資金を算出する際に、思い出してもらいたい。

そもそも、なぜ古民家フルリノベーションは、高額になるのか?そこにはまず、基礎補強に時間と費用を要する。過去の事例も参考にしてもらいたい。
そして、断熱工事。とくにサッシの交換が通常の建物のようにはいかない。
年数を経て歪んだ柱や土台を修正しなければ、重量的にも重くなる断熱サッシを入れるので、後々不具合が出る。この辺は、大工の技がモノを言う仕事で、近年は手を付けることを避ける傾向にもある。たくさんの古民家が解体される大きな理由のひとつだろう。

そして、部屋の天井高さが高いことも、費用が嵩む要因になる。大抵の方は、「せっかくある太い梁を見せたい。」と要望されるので、通常の天井高さ(2.4M)は優に超え、高くなれば倍以上の天井(勾配天井)になり、室内に足場を組んだり、曲がった梁に合わせた設えを施したりと、簡単にはいかない。

仕上げ材の選び方も慎重さを要する。ビニールクロスに合板フローリングで仕上げてしまえば、安くは上がるが、黒光りする梁や柱が台無しに。好みの問題にはなるが、せっかくの古民家。できれば無垢材・自然素材を使用してもらいたい。

照明ライティング、家具選び。トータルでまとまった場合は、工事時間と費用はかかるが、それこそ100年住める強くて素敵な空間『ザ・古民家』となり、子孫に受け継ぐことができる資産にもなるので、古民家リノベーションをお考えの方は、まずは情報収集に時間をかけ、多くの古民家リノベーション事例を、実際に見て参考にしていきましょう。

一級建築士 山口弘人