STAFF BLOGスタッフブログ

2022.07.31ikizama-vol.1『好きなものだけに囲まれている暮らし』



細井勇さん・さやかさん

profile
さいたま市出身の勇さん38歳。鹿児島県与論島出身のさやかさん38歳。二人とも自由人として暮らす両親の影響で、住む場所も生きる道も自分らしさを最優先させてきた。そんな二人が、偶然出逢い、絆を深め、寄り添いながら、お互いを尊重して暮らしている。



『自由を求めて農業に行き着く』





 自称「農薬・化学肥料不使用の少量多品目栽培の野菜農家」の細井勇さん。『us』×『明日』×『rough(ラフ)』×『laugh(笑う)』の意味を持つ「あすらふファーム」というブランドで、野菜たちに熱いメッセージを込める。そのココロは、「明日も笑っていられるような心持ちで、形式ばらず、気取らず、自然な感じで皆さんに親しみを持って頂けるような農家を目指す」。「毎日があっという間に過ぎ、充実しています。楽しいことだからこそ、がむしゃらに夢中になれる」と、農業三昧な日々。
実は、最初から農業を目指していたのではなく、紆余曲折を経て、やっとここに行き着いた。だからこそ、経験から培った想いがブランド名に息づいている。

あすらふファーム 栃木県下野市大領54-1



「会社勤めは無理。続けていたら支障をきたしそう。素直に自分の好きなことをしたい」と、30歳から枠にとらわれず自分らしい生き方を模索し始めた。いったん自分のしたいことを整理するために、片道切符で海外へ飛び出したことも。いわゆるバックパッカーとして、4カ月ほどかけて東南アジアを中心に各地を巡った。
 「結構ビビリで、そんな面は今まで自分にはなかった」と新たな自分に気づくこともあったが、本当にやりたいことがまだ見つからず、派遣やリゾートバイトを単発でこなしていた。



ある時、カフェ経営に夢を持ちアルバイトで入ると、実績と人望をかわれ店長候補として副店長に抜擢されたが、「人間関係で壁にぶつかり、自分が出せなかった」と1年で挫折。心身のリハビリも兼ねて、住み込みで農業の世界に。嬬恋のキャベツ畑のシーズンバイトだったが、はじめて「自分に向いている」と実感した。
3年間複数の農家の住み込みで働き、あらためて農業で生きることを決意。しかも、「農薬を使って大規模にやるより、小さくてもいろいろな農作物を有機で育てたい」という、敢えて困難な道を選んだ。



それからは、早朝から深夜まで農一色の暮らしにシフトチェンジ。「好奇心の赴くままに、自分の感性で突っ走っている状況。人が見たこともないような全種類の野菜を育てたい」と、向かうべき夢に瞳を輝かせる。



勇さんの農業スタイルは、経験と本、感覚でブラッシュアップするというもの。「職人として生涯現役でいたい」と、愛情込めて手間ひまかけて全部ひとりでこなしている。



『誰と一緒に住むかが大切』





 さやかさんの父は兵庫県、母は北海道生まれで、結婚して与論島に移住。好きな所に住んで自由に生きる親たちの背中を見ながら、離島でのびのび育ち「自分の好きな場所で生きるのが一番」と思っていた。
 一方、「広かった浜がどんどん狭まり、サンゴの発火現象なども起きて、環境の変化が怖かった」と、環境破壊を肌で感じながら暮らしていた。「これは、日本だけの問題ではない」と危機意識を高校生で持ち、国際学部で学ぼうと宇都宮大学国際学部に入学。国際学部では唯一日本のことを学ぶ場である行政学のゼミを受講したことから、徐々に街づくりに興味が向き始める。「民間でも街づくりに携わる会社はあったとは思うけど、利益を上げなければいけないということに耐えうるかというプレッシャーで、公務員志向になりました」と、複数受けた役所の中で、一番早く結果が出た宇都宮市役所に勤務。



海の青が好きなさやかさんは、緑が好きという夫を「あおむしみたい」とちゃかす。お互いの違いをきちんと認め、尊重して二人の時を紡いでいる。

「栃木県は海がないので、最初は苦しかった。年に数回は海を見に出かけていましたね」。ところが、栃木県の山や自然を知るようになってからは、「むしろ海より山が好きになりました」と、だんだん住んでいる地が好きになってくる。勇さんと知り合ってからは、「好きな場所に住むというよりも、誰と一緒に住むかが大切になってきました」。



それから、二人で寄り添って暮らせる所を探し求め、勇さんのための畑が近くにあり、さやかさんも通勤できる場所に辿り着いた。築30年の民家と広い敷地、堂々とした大谷石造りの蔵、のどかでご近所ともほどよい距離感。リノベーションで手にした、温もりのある木と無機質なモルタルのオリジナルな空間は、まるで、趣味も好みも違う二人のようにいい感じに調和している。



新築ではなく、リノベーションで生まれた、どこにもないオリジナルな空間。むき出しの柱に無造作に打たれたフックや、モルタル仕上げとタイル貼りの壁が個性的なキッチンには、二人の個性がさりげなく現れている。



『自分らしく生きることで夢が広がる』
 初対面の印象が面白い。勇さんは、「農業に没頭するためには農以外の暮らしをサポートしてくれるパートナーが必要」という友人のアドバイスで嫁探しをスタート。「いろいろな所に住みたい願望があった」さやかさんは、「父の体調悪化と脱栃木のために、婚活アプリで県外の人を探したら、たまたま勇さんに行きついた」と。さやかさん曰く「田舎育ちで親が自由人だったので、どこでも生きていける人で、いろいろな話しを一緒にできる人が優先条件。勇さんは、順応性と好奇心があって、どこでも生きていけそう。健康で生きる力がある」と人間性をズバリと見抜く。勇さんは、「素の自分を包み隠さず出していたら、なかなかいい人と巡り会えない中、さやかは金髪の自分に動じることもなく、あまりにも素敵な人で焦った」と照れくさそうに振り返る。



 出逢いから半年で、両方の親たちに背中を押されてのゴールイン。プロポーズは、なんと挙式前日の夜、さやかさんが顔パックしている最中と、なかなか笑えるエピソード。あれから2年、二人は、自分たちらしい時間を共有しながら、心地よい暮らしを愉しんでいる。


勇さんの棚には、独学で農業を探求するための本がぎっしり。さやかさんの棚には、亡き父親や与論島の想い出がつまった写真立て。「好きなものに囲まれて心地よく暮らしたい。家具も修理しながら子どもたちに引き継いでいけるものを選びました。使い捨てるのを前提に買うのはもったいないし悲しい。家を素敵にリフォームしてもらったので、それに見合うものをそろえています」と、幾人もの職人たちの手で形になったものを大切にする。お気に入りの靴は何度も“お直し”し10年も履き続けているほど。









食べ物の好みも、旅のスタイルも、趣味も違う二人だけど、変に装飾されていないシンプルなものを好み、長い時を経ても遜色のない存在感を醸している本物を好む。要は二人の根っこは同じなのだ。
「野菜セットを宅配したい。移動トラックで野菜を売ったり、直売所で販売したり、もっともっと自分の野菜たちを消費者に届けたい。蔵も整備してイベントを開催し、いろいろな人たちが集える場をつくりたい…」と、勇さんの夢はどんどん膨らむ。
 「庭を雑木林にして、果物の木を育て収穫する老夫婦のドキュメンタリー映画『人生フルーツ』のような暮らしをしたい」というさやかさん。「夫の姿は、大変そうだけど面白そう。私も手伝いたい」と、今は仕事に追われているが、合間をみて勇さんの育てた野菜の食べ方レシピや加工品の開発をしてみようと考えている。
薪ストーブのある土間で、勇さんがギターをつま弾くと、お気に入りの本を手にさやかさんが傍らに寄り添う。「自分が楽しいと仕事をしている人は少ない。仕事を変える時は自分探しで、それを何回もやって見つけたら、もう一生続くはず。そういう意味では、勇さんはすごい」と、憧れにも似たまなざしで夫を語る。
同じことをしなくても、お互いを肌で感じられる空間が心地よい。好きなものだけに囲まれて、お互いを気遣いながらも、楽しく自由に自分たちらしい生き方をする二人は、なんとも素敵な関係だ。



野菜は基本買わない。「仕事で疲れていても、収穫した野菜を渡されると作っちゃいますね(笑)」。



【Project staff】
企画・編集/ドクターリフォーム Banana works LABO
カメラ/氏家亮子・CLALiS
ライター/菊池京子